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メンタルケアとしての坐禅

坐禅すれば悩むことが少ない

 坐禅や呼吸法をしていると、2~3カ月もたてば、セロトニン神経や前頭前野が活性化します。つらい思考、苦しい思考をしていることに気がついた時あるいは、つらい感情・気分になっていることに気がついた時、衝動的行動に移らず、すぐに坐禅や呼吸法時の冷静な心になって、状況を把握して、冷静な行動をとります。

 その時にできない場合には、うちに帰ってから坐禅や呼吸法を行います。坐禅やゆっくり呼吸法を行うと、興奮(いかり、不安、ゆううつ、イライラなど)していた心がやわらぎます。こうして、大きな悩みに発展しなくなります。

  難しい悩みが起きた場合には、静かに坐禅して、ゆっくり呼吸法などを行った後、次のような例で、その悩みと心を観察して、問題を克服します。坐禅の時に自分の精神活動を洞察して自分をよく知ることができて、日常生活で悩みにとらわれることが少なくなります。

(1)悩む心を観察する

 つらくなった時、苦しいと感じた時には、思考から感情、そして気分の悪化が起きたことを観察します。感情は起きるのが自然であると自覚して、嫌わないでいるとおさまるので、感情や気分をそのままにしておきます。

 思考に入ると、見るもの聞くもの、感じるもの等の豊かな実際事実から離れてしまいます。現在の目前のことから意識を離して、いたずらに不安、不満を強めて衝動的な行動に移ることなく、実際の事実をよく観察して不快事象を受容します。自分を傷つける思考を止めて、自分の願いを実現する大切な目前の仕事や楽しめることに取り組むようにします。

(2)自分・他人の見解をやめる

 何か悩みがあって、自分を責めたり、嫌う思考をすると、ゆううつな感情が起こり、対処不能と思うと、落ち込みが深くなることを観察します。

 逆に、悩みは、あの人のせいだという方向で考える (他者嫌悪)と、怒りがこみあげて相手を傷つけたくなる(非行犯罪・いじめ)か、それができないで我慢すると、ストレスになります。自分や他者の嫌悪、否定では悩みは解消しないことを観察して、その他の対策をとるのが賢いのだと自覚します。苦しむことになる思考や衝動的行動に移らず、賢明な行動を選択し実行します。

(3)かたよった思考を変える

 つらくなるのは、思考のせいですが、その思考内容が極端である、悲観的すぎる、一方的すぎるなど、かたよっていないかどうか観察します。

 かたよっていることに気がついたら、その悩みから離れることができます。自分でかたよっていることが自覚できない場合には、親しい家族などに相談します。自殺するしかないと思うのは、最悪のかたよった考えです。

 坐禅の力によって、思考に移らず目前のことに意識を向けて生活します。目前の事実の把握と価値実現の行動に集中するようにしていきますと、極端な思考もしなくなります。

(4)願いの実現のために小さな苦はこだわらない

 自分は将来こうしたい、こうなりたいという願いを思いおこします。願いとは、学校を卒業したいとか、仕事をやめたくない、家庭を幸福にしたい、というような願いでもいいのです。他者のために貢献したいという願いもあります。

 「自分の願いは、これこれだ。それなのに、今この問題にこだわっていて、ゆううつになりうつ病になる(または、やめる)よりも、学校に行って卒業したい (仕事を維持したい、家庭を破壊しない)。だから、このつらい出来事はもう忘れてしまおう。」とこのように、今できることをみつけて意識をその実現に向けます。

 坐禅の力を日常生活の場面にも応用して、不快な出来事があったりつらい思考に気づいたその現在の瞬間に、願いを思い起して、願いを実現する方向の行動を選択して実行するようにします。

(5)相手の苦悩を思いやる

 怒りなどが大きい場合、相手よりも高い位置になって、許してしまうことを検討します。

 「あの人は悩みや不満があるので、人にやさしくできないのだろう。私にあんなことをしたのだろう。あの人を許そう。あの人を恨むのはやめて、自分の目標に向かって勉強しよう、仕事をしよう。人にふりまわされず、自分の人生を大切に生きよう。」

 怒りや不満を感じたその瞬間に、そういう感情に影響された衝動的行動をとると、相手と自分を共に苦しめることになります。自分の願いや他者の幸福の実現を自覚して賢明な行動をとります。坐禅の時、生活行動の時に、自分の心の洞察、願いの想起を日常化してそういう賢明な行動ができるようにします。

(6)思考ではなく行動を考える

 問題を冷静に分析してみると、自分がかたよっているわけでもなく、組織や他者に問題があると確信できる場合があります。たとえば、いじめられる、差別される、不当な扱いをされるなどです。そういう場合、一人で悩み自己嫌悪、他者嫌悪にとどまっては解決しませんので、解決する行動をとることを考えます。一人で悩み、うつ病になって自殺などせず、家族や公的機関などに相談することも賢明です。

 これらは、例ですが、しっかり坐禅していると、自分の精神活動を洞察する力が向上して、不快事象があっても衝動的行動をせず観察して、自分の願いを想起して、不快事象を受容して願いを実現する方向にある行動を自由意志によって選択できるようになります。心の病気も回復しますし、ストレスがあっても心の病気を予防できます。

 坐禅や現在の目前の価値実現の行動に専念する生活は神経生理学的な影響をもたらします。 セロトニン神経や前頭前野が活性化して、思考が渦巻くことや、感情が抑制されて、肯定的な見方、ものの見方の転換ができるようになります。 

 坐禅は、セロトニン神経を活性化して、かたよった思考や否定的な感情や嫌悪、攻撃的、衝動的な行動を抑制します。従って坐禅は心の病気や非行犯罪の予防になります。

 また、坐禅や呼吸法は、前頭前野を活性化させて、仕事などに発揮される作業記憶、集中力、思考、判断力、コミュニケーションなどの機能を向上させます。
 また、ストレスによる感情をコントロールすることによって、自律神経、ホルモン、免疫系にかかわる体の病気にもかかりにくくなります。まさに心身一如といえます。

 こうした心得で坐禅をして、その力で日常生活の行動中にも、今の目前のことを真剣に行動するように及ぼしていけば、人生上、いろいろな出来事があろうとも衝動的行動をとらずに、状況を冷静に観察して困難も受け入れて適切な行動を自由意志で選択して乗り越えていくことができるという確信を得ることができます。自分への信頼性が向上します。

著者 大田健次郎
1945(昭和20)年、宮崎県生まれ。日本IBM(株)に勤務のかたわら、禅を心の病気のカウンセリングに貢献する研究を重ねる。花園大学大学院・仏教学専攻修士課程修了。主著『道元禅師』(近代文芸社)。
現在、特定非営利活動法人マインドフルネス総合研究所代表(埼玉県蓮田市)。禅から開発したマインドフルネス心理療法によるカウンセリング、カウンセラーの育成を行う。